航海日誌
    
 
 
 


 

 
 

 宇宙巡洋艦 アーガマ。
 宇宙の平和を願うロンド・ベルの勇者達。





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 広域パトロールに就いていた大空魔竜チームが、その惑星を発見したのは偶然だった。
 とはいえ。
 本当に偶然だったのかといえば、定かではない。なにしろ大空魔竜にはサコン・ゲンがいるのだ。彼は一説ではアカシックレコードを呼び出す能力があると囁かれている。
 半分民間人の軍人や、善意の協力者で構成されているロンド・ベル隊は、個々が強力とはいえ戦艦も人員も少ない。戦況が小康状態であるとはいえ、移動要塞として重宝される大空魔竜が長期パトロールに出ることに、上層部は頭を痛めていた。「不必要だ。」と言いたいところだっただろう。だが、サコンが提出する計画書を却下できる者はいない。
 その惑星は、大きさでいえば火星ぐらいだろうか。.すでに活動をやめた恒星の周りを、いくつかの兄弟星と廻っていた。文明の片鱗さえみつからない凍りついた惑星。だがそこには、希少価値のある鉱物が埋蔵されていた。この稀有金属でコーティングされた戦艦は、大抵のビームを防ぐことが出来るだろう。ゲッタービーム、光子力ビームでさえも。
 大空魔竜は工場としての設備も持っているし、研究機材も充実している。さっそく採掘、精製に取り掛かったが、いくら戦闘地域を遠く離れているとはいえ、敵が現れないとは限らない。貴重な鉱石も、敵の手に渡れば脅威となる。大空魔竜自体が凄まじい武器を持つし、ガイキングやスカイラーなどのコンバットフォースもいるとはいえ、味方から遠く離れた辺境の地ではどんな事態に陥るかわからない。残念ながら味方の手駒の少なさは誰もが知っている。応援に向かう人員や戦闘ロボットを最小限に抑え、出来るだけ短期間で採掘を終わらせさっさと帰還したい。
 ならば。
 隊でもずばぬけた攻撃力を持ち、しかも採掘作業をこなせるロボットといえば。

 大文字博士は、ゲッターチームの出動を要請した。





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 アーガマのプレイルーム。
 「ふ〜ん。今、地球ではこんなのが流行っているんだ〜〜」
 「そうよ、ネイルアートって言ってね。かわいいでしょう。」
 「うん、面白そう!」
 「私はこっちの色がいいな。」
 キャピキャピと声が弾けている。殺風景なプレイルームのその一画だけ、花が咲いたようだ。
 「えへへ、いいもんだな〜〜」
 少し離れた所で鼻の下を伸ばしているのは兜甲児だ。その隣でボスもデレデレしている。
 「素敵だわ。でも、私たち、爪を伸ばせないからつまらないな。」
 弓さやかが雑誌を見ながらため息をつく。
 「こんな爪じゃ戦えないものね。」
 岡めぐみ、南原ちずるもパラパラとページをめくる。
 「あら、このケーキ、おいしそう!!」
 「ほんとだわ!このチョコレートムース、食べたい!!」
 「ほら、このパイも凝ってるわ。木の実とフルーツがいっぱいで!」
 らんらんと眼を輝かせる面々。先ほどのオシャレよりももっと力が入っている。
 「ありゃりゃ。」
 「やはりここにいる女の子は、色気よりも食い気かあ。」
 甲児が気の抜けたようにつぶやく。
 「失礼だよ、甲児君。」
 大介があわててたしなめる。」
 「なによ、甲児。」
 間に合わずマリアが睨む。
 「いいじゃない、別に。」
 「そうよ、だいたいいくらオシャレしたって、ここにいるのは甲児たちじゃない。オシャレのし甲斐もないわ。」
 すぐさま逆襲される。
 「なんだと!」
 こちらもすぐにムキになる。ロボット乗りが血の気が多いのは仕方がないのだが。
 「まあまあ、落ち着きたまえ。」
 女の子と口喧嘩して勝てるわけがないだろう、と大介が甲児にささやく。
 「ふふっ。甲児君。女の子のお菓子好きは、男の子にもいいものよ?」
 早乙女ミチルが意味ありげに微笑む。
 「え?どう意味だい、ミチルさん。」
 「オイラ達、今回はゲッターロボの出動要請で来たんだけどさ。」
 ムサシが大にこにこで続ける。
 「みんなにもちゃぁんとお土産持ってきたんだぜ。」
 「お土産ってなに?」
 シローが嬉しそうに尋ねる。
 「ほら。」
 ムサシが、さっきまでさやか達が見ていた雑誌を手に取る。
 開かれたそこに大きく書かれているのは。
 『バレンタイン特集v』
 「ええっ!?」
 「手作りチョコの材料を、いっぱ〜〜い持ってきたんだ。ミチルさんの作るチョコレートケーキは絶品だぜ!」
 よだれをたらさんばかりのムサシ。
 「えっと〜〜、ということは・・・・」
 さやかのほうを見て、ちょっと赤くなる甲児。見れば、今まで我関せずと傍観していた豹馬や健一、十三や一平まで耳をそばだてている。
 「私は兄さんにあげるから、ついでに甲児にも作ってあげてもいいよ!」
 マリアが言う。『どっちがついでなんだ・・・・』 お兄ちゃんはちょっとサミシイ。
 「ふ〜〜ん。私はシロー君にあげるから、ついでに甲児君にもボスにもあげるわよ。」
 ちょっとむくれてさやかも言う。ここで「ついででなんか、いらねえやい!」と言いかけてグッと我慢の甲児。言ったが最後、後悔するのは目に見えている。ついで、といいつつ、手の込んだものをくれるに違いない。それくらいには付き合いは長い。で、ゴマすっておく。
 「へぇ、嬉しいなあ!楽しみにしてるよ!」
 ニコニコニコ。
 いつも絡む甲児が素直に答えたので、他の面々も便乗してねだる。
 「ちずる、俺たちにも作ってくれるだろ?」
 「めぐみは料理が上手いからな。」 (忍者食ではなかったか?)
 まだ作ってもいないのに、甘〜〜い匂いがする気がするのは何故だろう。
 だが、この殺伐とした戦いに加わっている戦士は大半がまだ十代だ。選ばれて、もしくは巻き込まれて。それでも現実を厭うことなく、日々命をかけている。
 艦長であるブライトを始めとした軍人たちは、時折彼等を痛ましく思う。ブライト達だとて、若くして非情な戦いに放り込まれた者達なのだが。
 戦いによる繋がりに縛られた、縛られずにいられなかった後進達。
 それが不幸だとは、誰も言わないだろうけれど。
 それが幸いだったと、誰かは言うかもしれないけれど。



 


 「え〜〜と、これでいいのかな。」
 「そうそう、そこでゆっくり生クリーム入れてね。」
 アーガマの調理室は、今日ばかりは男子禁制の聖域だ。
 おかげで今日の食事は、朝昼晩とサンドイッチやカップラーメンだが、それに文句を言う者はいない。そんなツワモノはいない。あはは。
 「でも、ミチルさんは料理が上手よね〜〜。」
 ため息をつくようにさやかがつぶやく。
 「うん、すごいわ。」
 マリアも疲れた様子で同意する。慣れない作業は二人にとって、かなりの苦行だ。変に張り合って、上級のお菓子を作ろうとしたものだから。めぐみやちずる、マリ達はちゃんと初心者向けのチョコにしたので満足顔だ。
 「うちはムサシ君やベンケイ君がいるから、結構料理はするのよ。さやかさんやマリアちゃんだって、地球にいれば作れるわよ。ここは戦いの場所だもの。」
 慰めるミチル。
 「そうね、あの二人がいたら、料理にも慣れそうね。」
 クスクスと笑う炎ジュン。彼女の前にはシックな洋酒入りのボンボンがある。..
 「リョウ君は結構、甘いものも食べそうだけど、ハヤト君は甘いもの大丈夫なの?」
 さやかが聞く。
 「確かに苦手だわね。だから、この.オレンジピールのチョコ掛けはハヤト君用なのよ。」
 ミチルの前に並べられたいくつものトリュフの隣に、小さな包み。
 「ひとり分だけ別なんて面倒ね。」
 「ううん、そうでもないわ。余ったオレンジピールは刻んでチョコレートケーキに入れるから。これはみんなで食べましょう。」
 さっさとオレンジピールを刻んでケーキの種に入れる。
 「ねえねえ、ミチルさん。ゲッターチームって4人いるじゃない。誰が好き?やっぱりリョウ君?それとも意外にほだされてムサシ君かな。」
 キャピキャピと年少組が尋ねてくる。
 「それとも、大穴でハヤト君!。」
 楽しそうなマリアに、
 「マリアちゃんは、誰なのか、すぐわかるわね。」
 にっこり笑うミチル。笑ってはいるのだけど・・・・・・・・
 「あ、ミチルさん。ケーキ作るの手伝うわ。私の分は終わったから。」
 ジュンが急いで型を用意する。
 「助かります。艦の人全員のおやつにしたいので。」
 にっこりと、ミチル。
 


 


 
 「なあなあ、ミチルさんって、本当に家庭的だよな〜〜」
 プレイルームでは手持無沙汰なメンバーが、それでも個室に戻らずにたむろしている。思い出したようにチラチラと出入り口を見ながら。
 「おうよ!ミチルさんは料理も掃除も裁縫も最高さ!」
 ムサシが甲児の褒め言葉に嬉しそうに返す。
 「だよな〜〜。おれ、早くにおふくろ亡くして、家庭的っていうのに弱いんだよな〜〜」
 「おい甲児。ミチルさんはやらないぞ!」
 ムサシが釘を刺す。
 「わかってるよ、お前やリョウさんと張り合おうとは思っちゃいねえよ!」
 でも、いいんだよな〜〜と呟く。
 そうそう、なんていうのかな。ホッとするんだよな。
 盛り上がっているメンバーを横目で見ながら、ムサシは重いため息をついた。
 『これだから、アイツが拗ねるんだ。』  





                                  ☆
 




 大気のない星の上では、音は聞こえない。
 だが、そこにいる誰もが、荒々しい採掘音の空耳を聞いていた。
 ガッガ、ガッガッ、ガッガ、。
 巨大なドリルが器用に採掘する。パワーアームが大量の鉱石をトラックに載せる。
 次々と大空魔竜に運ばれ、途切れることなく製錬されていく。

 「おい、ハヤト。ちっとは休もうぜ?」
 おそるおそる、といったふうでベンケイが声をかける。
 沈黙。
 困り果ててリョウを見遣るが、リョウもただ首を振るばかりだ。
 『・・・・・・ハヤト君、ちょっと帰ってきてくれないか。』
 通信機からサコンの声がかかる。
 「了解しました。」
 短く答えるハヤトにリョウとベンケイはホッとする。ほとんど休憩がなかったのだ。トイレさえ交代で行っていた。熱いコーヒーが飲みたいな、と思いつつ戻ろうとすると、
 「おい、リョウ。」
 ハヤトの声。
 「なんだ?」
 「ちょっと行ってくる。ゲッター2の操縦、代わってくれ。」
 「え?まてよ、俺たちも行くよ。」
 「さっさと終わらせて帰りたいんだ。」
 冷たく言いきると宇宙服を着て行ってしまった。
 あっけにとられるリョウとベンケイ。
 ハヤトが何故不機嫌かはわかっているけれど。
 仕方ないとも思うけれど。
 「やれやれ。」
 遠く地球の方向を見つめる二人。
 「採掘には、宇宙開発に重きを置いていたゲッター2が必要なことはわかるけど。」
 「で、地球からムサシとミチルさんに持ってきてもらった。」
 「でも、ゲッター2を一番使いこなせるのはハヤトなんだから仕方ないじゃないか。」
 交互にブツブツ文句を言う。
 「俺たちが帰るまで、ムサシがちゃ〜〜んとミチルさんにちょっかい出す者がいないか、目を光らせるっていうのに。」
 「いくら頑張って仕事しても、バレンタインには間に合わないって!!」


 二人の絶叫が、無音の宇宙空間に吸い込まれていく。






 大空魔竜に戻る道々、ハヤトはボソッと呟く。
 「ロンド・ベルに戻ったら、ミチルさんに『売約済み』の札でも貼っておくか・・・・・・・」





       
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 シフコ様リクエスト

      お題は  「スパロボで、ハヤトとミチルさんが別々の現場。
             ミチルさんがモテモテだろうと妬いて、『売約済み』の札でも貼っておきたいくらいだ」
             というハヤト。


 いや〜〜、申し訳ありません。私はゲームのスパロボやったことないのですよ。ガンダム系も知りません。
 コンバトラーやボルテスは見ていたのですが。詳しいのはダイナミック系だけです。
 コメディ風にしたかったのですが、どうでしょうか・・・・・(汗!)

 
   いくつか書いていくうちに、それなりになるかも・・・・・・・脱兎!

        
       (2010.1.31    かるら)